ペルシャ料理はペルシャ絨毯と同様、彩り豊かで複雑です。中東料理に属しますが、インド料理にも似たところがあります。
ペルシャ料理が生まれたのは紀元前と言われ、非常に長い歴史の中で育まれてきた文化です。伝統の中で培われてきたペルシャ料理は、洗練されていて、たいへん創意に満ちています。ハーブやスパイスを多用しますが、辛みは少ないためマイルドで食べやすい料理です。
ペルシャの朝食
現在のイランの国土は広く、料理も多岐に渡ります。カスピ海地方では魚がよく食べられますが内陸部では魚は貴重です。多民族国家なので料理もバラエティに富んでいます。
一般に、ペルシャの人々はナン(パン)を非常に好んで食べます。ナンというとインド料理のナンを思い浮かべる人が多いかと思いますが、イランのナンにはとても多くの種類があります。インドのナンのようなものはナン・バルバリと呼ばれています。その他に、サンギャック、タフトゥン、ラバーシュ、ファティールなど味や見た目、作り方が異なります。 朝食にはそういったナンが食べられていますが、ほとんどの家庭ではわざわざ朝早くに焼きたてのナンを求めにナン屋さん(ナンワイ)に行きます。ナンワイは街のあちこちにあり、各々のナンワイさんが各々の石窯で各々の種類のナンを焼いています。ナンはそのまま食べても美味しいですが、アサル(ハチミツ)やハメ(生クリーム)、パニール(クリームチーズ)、そしてジャムなどを付けて食べられます。ジャムは大抵手作りで、日本のようにイチゴやリンゴのジャムの他、人参のジャムなどが人気です。
ペルシャの食事はスローフード
外食はあまり盛んではなく、ペルシャ料理の基本は家庭料理です。おもてなしの文化があるため、来訪者がいると張り切ってご馳走を作ります。ホームパーティーも盛んです。
食事をするときのスタイルは、最近ではダイニングテーブルを使うことも多いですが基本的には床に座って絨毯などを敷いた上で食べます。天気がよいお休みの日などには外に食べ物と絨毯やキリムを持って出かけて食べることもよくあります。
イスラム教徒が人口のほとんどを占めるので基本的には豚肉は食べられません。牛肉や羊肉を食べますが、肉料理として有名なのが「ケバブ(キャバブ)」(炭焼肉)です。その他にもメイン料理としてはシチューや煮込み料理がよく食べられます。ペルシャ料理は、ゆっくりと時間をかけて丁寧に作られています。まさにスローフードと言えるでしょう。
野菜を使って体を気遣うヘルシーなペルシャ料理
ペルシャ料理はとてもヘルシーです。
まず、野菜を多く使います。ペルシャ料理にはハーブが欠かせませんが、実はハーブという言葉はペルシャ語には存在しません。ハーブは数ある野菜(「サブジ」と言います)の一部にすぎません。つまりそれほど意識されずに自然にハーブが食生活に溶け込んでいるのです。ハーブ以外の葉野菜はもちろん、根野菜や豆類も日本でお馴染みのものが同様に食べられています。多くは無農薬で、その野菜の特徴を生かし、さまざまな食材と組み合わせて料理されますが、またその栄養分や効用も重視されます。ペルシャでは野菜やハーブといったサブジやスパイスや蒸留水を、「冷」「温」「涼」などの特性に準じて使い分けています。季節や人それぞれの体調や体質に合わせ、食べ物で健康のバランスを整えるのです。そういった考えは習慣的にひとりひとりに息づいており、イランの人は食べ物の効能をよく知っています。例えば「風邪を引いているからカブを食べたほうがいい」とか、「体調が悪いならナスは食べないほうがいい」などと言ったりします。
豆やナッツが大好き
健康食品としてよく摂ったほうがいいと言われる豆料理もペルシャ料理には多く登場します。また、ペルシャ人はナッツが大好きです。品質の高いピスタチオが有名ですが、それにアーモンド、ヘーゼルナッツ、カボチャやすいかの種、くるみなどをお好みでブレンドするアジルというミックスナッツもあります。そのまま食べたり料理に使ったり、お菓子に入れたりします。
フルーツ大国・ペルシャ
ペルシャはフルーツも豊富です。日本と異なるのは、フルーツを肉や野菜料理に組み合わせて使うことが多く見られることです。有名なものとしては、ザクロ、くるみ、チキンを煮込んだシチューのような家庭料理「フェセンジャン」などがあります。
その他にも日本で見られるようなフルーツはほとんど食べられますが、特に栄養価が高くよく食べられているのがザクロとイチジクです。ザクロはジュースにして飲んだり、イチジクは料理の中に使ったりジャムにしたりします。冬至の日にはスイカを食べる風習があります。日本と異なり面白いのは、キュウリは野菜ではなくフルーツの一種とされていることです。友人や親戚の家を訪れると、必ずフルーツの盛り合わせが振る舞われるのですが、オレンジや桃、イチゴなどと一緒にキュウリが入っていることがよくあります。
また、実にさまざまなフルーツを乾燥させてドライフルーツとして売られています。他にもピクルスなど保存食品が盛んなペルシャですが、これはもともと遊牧民が移動しながら長期間保存できる食料を必要としていた文化から受け継がれてきたものでしょう。
コメもよく食べます
イランでは稲作も行われており、米もよく食べられています。ただし日本とは異なり、米を炊く際に油と塩、またはサフランなどを入れて味を付けます。おこげは非常に好まれていて、わざわざ鍋底におこげを作ってきれいに食卓に出します。おこげを意味するタディッグという言葉は「鍋底」を意味しているように、料理の一種です。
ヨーグルトも好まれる食材のひとつです。そのままでだけではなく、料理にかけたりシチューに入れて煮込んだりと多用されます。中東やインドなど他の諸国でも見られますが、砂糖ではなく塩味で、野菜などを入れて食べることが多いです。
スイーツとチャイ
スイーツもたいへん好まれており、多岐に渡ります。基本的にやはり家庭の味で、日本と同様にケーキやクッキー、プリンやアイスクリームやシャーベットなど。作り方も似たようなものですが、スパイスを多用するところが特徴です。フルーツやナッツが混ぜ込まれますが、デーツ(なつめやし)は日本ではなかなか見られない食材のひとつでしょう。また、デザートにバラ水などハーブウォーターを垂らすこともあります。
ドリンクは、フルーツがたくさんある国なのでもちろんフルーツジュースや、ハーブジュースなどが飲まれます。
温かい飲み物で、日本でお茶にあたるような日常的に飲まれるものはチャイ(紅茶)です。ペルシャの家庭にはサモワールという紅茶を作るための大きな容器があり、それでたっぷりと一日中チャイを飲むことができます。外に出るとチャイハネと呼ばれる喫茶店があり、そこでは水煙草を飲むこともできます。透明の耐熱ガラスの小さな容器が用いられることがほとんどです。サフランなどのスパイスやバラ水などの蒸留水を垂らして飲んだりもします。甘いものと一緒に飲むこともありますが、お茶受けがないときは、角砂糖を丸ごとほおばってからチャイを飲みます。おもてなしの文化なので、お客さんが来るとチャイを淹れて出しますが、イラン人は一般に紅茶を淹れるのがとても上手です。